アスリート's 集中イズム

元プロテニス選手・長谷川健太氏に聞く：試合で培われた「集中力と記憶力」の習慣

アスリート's 集中イズムをご覧の皆様、こんにちは。今回は、テニス界で長きにわたりトップ選手として活躍され、その冷静沈着なプレースタイルと緻密な戦略でファンを魅了した元プロテニス選手、長谷川健太氏にお話を伺いました。

引退後も、その洞察力と明晰な思考で指導や解説に携わる長谷川氏。厳しいプロの世界で培われた集中力や記憶力の維持術は、私たちが日々の生活を送る上で、きっと役立つヒントになることでしょう。

試合で培われた「精密な集中」の作り方

長谷川氏は、コート上での一瞬の判断が勝敗を分けるテニスにおいて、いかにして最高の集中状態を作り上げていたのでしょうか。

「テニスでは、ポイントとポイントの間、そしてチェンジコートの時に、いかに心を整理し、次のプレーに集中し直せるかが非常に重要でした」と長谷川氏は語ります。

• ルーティンによる集中スイッチのオンオフ 長谷川氏が特に重視していたのが、「ルーティン」の徹底です。サーブ前のボールを弾ませる回数、タオルで汗を拭く動作、ラケットの持ち替え方など、彼は毎回同じ動作を繰り返すことで、意識的に心を落ち着かせ、雑念を払い、次のプレーに意識を集中させていたといいます。 「試合がどんなに緊迫していても、このルーティンを行うことで、自然と『集中モード』へと切り替えることができました。脳がこの動作をきっかけとして認識し、無意識のうちに集中力を高めていくのです。」

• 意識的な呼吸がもたらす冷静さ 緊迫した場面で冷静さを保つために、長谷川氏は「意識的な呼吸」を実践していました。深くゆっくりとした腹式呼吸を数回行うことで、高まった心拍数を落ち着かせ、脳に十分な酸素を供給していたのです。 「深呼吸は、単に息を整えるだけでなく、興奮した神経を鎮め、冷静な思考を取り戻すための大切なツールでした。特に、プレッシャーを感じた時こそ、この呼吸法が役立ちました。」

【読者へのヒント】 日々の生活の中でも、何か作業を始める前や、少し気分を落ち着かせたい時に、数回深くゆっくりと呼吸をする習慣を取り入れてみてはいかがでしょうか。また、毎日の決まった時間に簡単なストレッチを行うなど、自分だけのルーティンを持つことも、集中力を高めるきっかけになるかもしれません。

経験を血肉にする「記憶の定着」と「振り返りの質」

長谷川氏は、現役時代から「考えるテニス」を実践してきたことで知られています。その思考力は、どのようにして記憶力と結びついていたのでしょうか。

「試合や練習で得た経験を、単なる出来事で終わらせず、次へと繋がる知識として定着させることに常に意識を向けていました」と長谷川氏は話します。

• 「記録と反芻」による記憶の強化 長谷川氏は、試合後や練習後には必ず、その日のプレーを詳細にノートに記録する習慣を持っていました。成功したショット、失敗したパターン、相手の癖、さらにはその時の自分の感情の動きまで、克明に書き留めていたそうです。 「書くことで、記憶が整理され、脳に定着しやすくなります。そして、後でそのノートを見返すことで、当時の状況を鮮明に思い出し、次の戦略を練る上で非常に役立ちました。」

• 「五感を使ったイメージ」の活用 記録した内容をただ文字として見るだけでなく、長谷川氏は当時のコートの匂いや風、ボールの打球音、相手の動きなどを五感を伴って鮮明に思い出す「イメージトレーニング」を実践していました。 「視覚だけでなく、聴覚や触覚など、複数の感覚を伴って記憶を呼び起こすことで、記憶がより深く、そして鮮明に脳に刻み込まれることを実感していました。それは、あたかもその場にタイムスリップするような感覚です。」

• 「なぜ？」を深掘りする思考 長谷川氏が特に重要視していたのは、「なぜ？」と問いを立て、原因を深掘りする思考プロセスです。「なぜあの時、あの選択をしたのか」「なぜうまくいかなかったのか」と多角的に分析することで、単なる経験を「知恵」に変えていました。 「この『なぜ』の思考は、記憶を単なる情報の羅列で終わらせず、具体的な改善策や新たな戦略へと繋げるための大切なステップでした。記憶が活用されることで、さらにその記憶が強化されるのです。」

【読者へのヒント】 一日の終わりに、今日あった出来事を振り返り、特に印象に残ったことをノートに書き出してみる習慣は有効です。また、その出来事に対して「なぜそうなったのだろう」と、少し立ち止まって考えてみることも、記憶を深め、思考力を高める助けになるでしょう。過去の旅行の写真を眺めながら、当時の匂いや音を思い出してみるのも、記憶の活性化に繋がります。

脳を健やかに保つ「全体的なケア」

長谷川氏は、集中力や記憶力が最大限に発揮されるためには、心身全体の健康が土台となると強調します。

「脳も体の一部です。体と同じように、日々のケアとトレーニングが非常に重要だと考えています。」

• 質の高い睡眠の確保 長谷川氏は、現役時代から睡眠の質を非常に重視していました。睡眠は、脳の疲労回復だけでなく、日中に得た情報の整理や記憶の定着に不可欠だと考えていたからです。 「決まった時間に就寝し、起床するリズムを保ち、寝室の環境を整えることで、質の良い睡眠を確保していました。脳が十分に休息をとることで、翌日の集中力と記憶力が格段に向上するのを実感できました。」

• 適度な身体活動の継続 現役引退後も、長谷川氏は毎日欠かさず軽い散歩やストレッチなどの身体活動を続けています。 「適度な運動は血行を促進し、脳への酸素供給を増やします。頭がスッキリとして、新しいアイデアも生まれやすくなります。」

• 心の休息とリラクゼーション ストレスは集中力や記憶力の大敵です。長谷川氏は、趣味の時間や自然の中で過ごす時間など、意識的にリラックスする時間を作ることを大切にしています。 「好きなことに没頭する時間は、心にとっての栄養です。心のストレスを軽減することで、脳のパフォーマンスも健全に保たれます。」

【読者へのヒント】 毎日同じ時間に眠り、同じ時間に起きるというリズムを意識するだけでも、睡眠の質は向上します。また、無理のない範囲で、毎日30分程度の散歩を取り入れたり、ご自身の好きな趣味に没頭する時間を意識的に設けることも、心と脳の健康に良い影響をもたらすでしょう。

脳は日々の積み重ねで進化する

長谷川健太氏のお話から、集中力や記憶力は、アスリートにとって特別な能力ではなく、日々の「習慣」によって養われ、維持されるものであることが分かりました。彼の実践されてきたことは、どれも私たちが日常生活に取り入れやすいヒントに満ちています。

「脳も体と同じように、日々のケアとトレーニングで進化します。特別なことをする必要はありません。今日からできる小さな習慣を、ぜひ皆さんの生活に取り入れてみてください。その積み重ねが、きっと皆さんの認知機能の維持や、日々の生活の質の向上に繋がるはずです。」

長谷川氏の力強いメッセージは、私たちの心に温かく響きます。今日から一つでも、アスリートの知恵を取り入れて、充実した毎日を送ってみませんか。